[大学教育フォーラム2026]『AIを活用した教育DXの取組について』ご講演メモ
日本データパシフィック株式会社 代表取締役 平 治彦
2026年7月17日、「大学教育フォーラム2026」がオンラインにて開催されました。多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。
本フォーラムでは、公立千歳科学技術大学の小松川浩教授をお迎えし、『AIを活用した教育DXの取組について』と題してご講演いただきました。
小松川先生は「教育システム情報学会(JSiSE)」の会長として、教育・学習システムの開発やその効果的な活用について日々研究を重ねられているほか、「大学改革支援・学位授与機構」の専門委員を務められるなど、多方面でご活躍されています。
今回のご講演では、高等教育における「未来像」についてお話しいただきました。その未来像は決して遠い先の姿ではなく、すでに現場で始まっていることを強く実感させられる内容でした。以下に、講演のポイントをまとめさせて頂きます。
1.『知の総和』:「専門知」から「総合知」への転換
2025年2月、中央教育審議会において『我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申)』が取りまとめられました。
小松川先生は本答申に触れ、従来の特定分野に閉じた「専門知」から、基盤的リテラシーを携えて多様な他者と連携・融合する「総合知」への転換が求められていると指摘されました。文理複眼的な思考力を養い、デジタル・半導体・グリーンといった成長分野や、地域課題(農業・観光等)に対応できる「社会実装型の人材育成」が極めて重要であると強調されています。
2.答申が示す「デジタル環境」の重要性
本答申では「デジタル環境の整備」について非常に深く踏み込んでいると言及されています。小松川先生は、その要点を以下のように整理されました。
●カリキュラムと授業形態の再設計
明確なカリキュラムポリシーのもと、学生一人ひとりが柔軟に履修できるよう、対面と遠隔(オンデマンド授業や反転授業など)の長所を組み合わせた新たな授業形態を組み合わせたカリキュラムを設計する。
●教学データ(IR)の分析と可視化
IRによる大学の教育改善を進めるためには、授業支援システムやポートフォリオに蓄積されたデータを可視化し、学習・授業支援にフィードバックすることが不可欠である。
●データ連携とAIの積極活用
AIを活用した効果的な教育方法の開発は、IR(教学分析)と一体的に進める必要がある。単にデータを蓄積するだけでなく、AIが活用できる形でデータ連携を図ることが重要となる。
●VR/ARを活用した学習体験の進化
教育実習や医療実習などにデジタル環境を取り入れることで、反復的なトレーニングが可能になる。さらにプラットフォームを共有することで、他大学の学生との共同学習や国際連携など、学びの質を一層高めることができる。
3.「情報」の役割と学びの軸をつなぐ「高大接続」
現在、DXハイスクールなどを中心に高校教育改革も一体的に推進されています。高校における学びの変化について、次のように説明されました。
●文理の分岐点は従来の「数学」から、必修科目である「情報」へとシフトしている。「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の知識レベルに大きな差はなく、「情報Ⅱ」はデータを活用した探究活動や深掘りを行う位置づけとなっている。
●「情報」や「探究活動」が軸となることで、高校教育自体が従来の「文系・理系」という二元論に収まらない構造へ変化しつつある。
●高校生が「情報」を活用しながら「探求的」に学んできた「軸」を、大学における学びの「軸」に接続できる学習支援システムの構築が重要になる。
【実践例:eラーニング・CBT教材を活用した高大接続】
具体例として、知識の定着(レベル1)から活用(レベル3)、さらには大学1年生の課題に直結する応用(レベル7)までを網羅したアダプティブテスト型のeラーニング環境が紹介されました。
例えば、総合型選抜の受験生に本教材を公開することで「大学入学時に必要な数学レベル」を事前に把握・自習させ、不安を軽減。合格後はそのまま「入学前教育」のプラットフォームに切り替え、大学での学びにスムーズに移行させる計画が進行しているとのことです。
4.初年次教育における「反転授業」の設計ノウハウ
反転授業は、知識体系が明確な授業やコア科目での導入が適しているが、全科目で行う必要はないとのこと。また授業時間は次のように定義・構造化されます。
知識の定着: オンライン動画視聴、ドリル、LMSの活用による予習
知識の活用: ブレンディッドラーニング、個人ワーク
知識の応用: 対面授業を中心とした実践
【効果的な運用のポイント】
ガイダンスで授業の「価値」「社会とのつながり」「目指すゴール」を明確に示す。
「予習すれば授業がよく理解できる」成功体験を与える。
つまずいた場合でも自分のペースで復習・挽回できる教材(動画・CBT)を用意する。
【初年次における運用のコツ】
15週の授業を単元ごとに構造化し、徐々にオンラインへ移行させることがポイントです。初年度の始めは対面でスタートし、「来週は確認テストを自宅で」「次は個人課題を自宅で」と段階的に慣れさせることで、2年次以降の自律的なオンライン学習へスムーズに移行できます。教員の役割も「教え込むこと」から「コーチング(主体的な学びの支援)」へと変化します。
5.AIを活用した個別学習支援と評価
個に応じた学習支援を実現するため、AIを活用した実践事例が共有されました。
振り返り記述や学習履歴、ワークシート等のデータをAIに入力し、対話型で個別にアドバイスを提供するシステムを構築。学生はAIからのフィードバックに対して「理解が深まった」とコメントしています。
また、成績評価においてもAIを活用。課題提出後にAIが一次評価を行い、そのフィードバックを受けて学生自身が修正・再提出するかどうかを判断します。教員は再提出されたレポートを中心に評価を行う仕組みにすることで、学生の納得感を高めつつ、教員の評価コストを大幅に削減することが可能となりました。
6.人とAIが「共創」する世界へ
教員とAIが「互いにどのような前提や知識構造を持っているか」を可視化・共有しながら対話を進めることで、より精度の高い指導や学習設計が可能になります。今後は、単なるツールとしてのAI利用を超え、「人とAIが共創する学びの世界観」の実現を目指すべく、「教育システム情報学会(JSiSE)」等で知見を共有・深化させていきたいと結ばれました。
おわりに
今回のご講演を拝聴し、これまで個別に捉えていた教育施策、デジタル技術、授業設計といった各要素が、一つの大きなストーリーとして鮮やかにつながる驚きを感じました。現在の高等教育の立ち位置と、目指すべき未来の姿を体系的に示していただいた小松川先生に、心より感謝申し上げます。